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全般性社会不安障害と言われて

書評「回避性愛着障害 絆が希薄な人たち」/岡田尊司

★★★★★

前半は、回避性愛着障害の解説。優れているのは後半。同障害を持つ人の陥りがちな適応戦略を見据えそれをどう克服するかを紹介しているのだが、勇気と力を与えてくれる。特に第6章、第7章は熱い。

人生に主体性を取り戻すこと。回避性愛着障害の克服とは、単なる症状の治癒のレベルに留まらず、人生をより良く生きることに繋がるのだと思った。

愛着とは

生まれてから1歳半くらいまでに間に、親が絶えず子供のそばにいて、常に子供に関心を払い世話を焼くことによって子供に生まれる、親に対する特別な結び付き。この時期に愛着が形成されないと、子供は他者と安定した愛着を育むことが困難になる。愛着とは、生物学的に、子供の生存を守るために生まれたものと考えられている。愛着があるから、赤ん坊は母にしがみつき、母も赤ん坊を片時も離さないようにして育てる。赤ん坊は母から離れると激しく鳴いて母を求める。そのようにして外敵等の危険から命が守られる。

愛着スタイルの分類

  • 安定型
  • 不安定型
    • 不安型
    • 回避型(愛着軽視型。他人との間に親密な関係を求めようとしない。親密な信頼関係やそれに伴う持続的な責任を避ける。遺伝的要素は25%程度、後は1歳半までの養育環境の影響)
    • 恐れ・回避型(回避型、不安型の両方を持つ。過剰な気遣いをして親しみを求める一方で、誰にも心を許せず信じられない)
    • 未解決型

回避性愛着障害の特徴(自分に当てはまるところ)、パートナー選びや仕事におけるヒント

自分で当てはまるところ

  • 親しい友人でも、顔を合わさなくなればすぐに親交が途絶える
  • 人に頼ったり人に助けを求められない
  • 他人といると緊張したり気づまりを感じてしまい、自己開示や感情表現が苦手
  • 自分の気持よりも相手の意図から逆算してそれに対して適切と思われる表現を選ぶ
  • 不安型(やたらと相手の顔色をうかがったり迎合する)を伴う場合がある
  • パートナーの苦しみに無関心/冷淡だったり、怒り・苛立ちを覚えたり上から憐れむ。
  • 相手を愛しているからでなく自分の基準等に合致しているから結婚したりする。そして相手から期待はずれな面を見せられると、覚めるばかりでなく嫌悪感さえ覚えたりする。
  • 愛情を求められれば求められるだけ、依存されればされるだけ、うっとおしく重荷に感じてしまう。
  • 不安型の面から、仕事を冷淡に割り切れず、人間同士の関係の次元に持って行ってしまい、苦しくなる。

パートナー選び

  • 仕事、趣味等、ある特定の領域を共有する仲間とその領域だけで付き合う(研究者同士の結婚等)⇒相手への共感や経緯が生まれ、長い期間をかけて愛着が生まれる可能性。
  • 不安型の妻が愛情を求めるような関係だと、うまく行かない場合が多い

仕事

  • 絶対的に自信を持つ領域を作り、そこで勝負する。人間関係の淡白さに文句を付けさせないほどの。
  • 逆に不幸な働き方は、勝負領域を曖昧にしたまま、会社や周囲の都合に流され、苦手な領域や雑事に流され、消耗するパターン

回避性愛着障害の乗り越え方

回避型の愛着スタイルを問題とするのでなく、それがもたらす「回避行動」の改善が第一義的な問題。それに付随して、愛着スタイルの問題をより安定的なものに変えてゆく。
回避行動を脱するということは「人生に主体性を取り戻す」ことに他ならない。人生に主体性を取り戻す。これこそが本書のキーワード。

ステップ

  • 避けている問題に向き合い、そのことについて語る
    • 「症状」について語ることに終始するのでなく、その根底に「原因」となる体験等について語る。それを繰り返すことによって、失敗と思っていたことの中にポジティブな意味を見出す。
    • 何をやってもダメだと言い訳をせず、問題から逃げることをやめる。自分が課題から逃げていることに気付き、もう逃げないと覚悟を決めること。このままでは自分の人生、将来が閉ざされてしまう、という危機感に雷のように打たれる体験が必要。現実との衝突。
    • ユングもそういう体験を経て、回復した。「こんちくしょう、失神などするものか」という決意を持って、何度失神しても勉強に向かい続け、その果てに疾病利得がもたらす失神への逃避を克服した。目先の幸不幸でなく、もっと大きな「人生」というパラダイムで俯瞰するのが良い。辛い現実に向き合うことへの不安や恐怖よりも、逃げ続けることにより人生の可能性が損なわれることへの恐怖が勝ることを自覚する瞬間が訪れた時、人は変わることが出来る。(今、自分はまさしくそのような瞬間にいるのではないか)
  • 回避を突破する
    • 回避している状況は、砦に立てこもっている状況。高い壁で守っているつもりだが、実際はそこから出られなくなっている。そこから討って出て見る。
    • エクスポージャー」。まずは一番恐れている状況を生々しく思い描いてみる。それは本当に耐えがたいことなのかを自分に問うてみる。実は死ぬほど不安ということはないのでは、と思えたら、そこから討って出る。
  • 高すぎる理想を下げる
    • 「会社に行く限りはきちんとしなければ」という理想、思い込みはかなぐり捨てる。
    • まずは自分の苦しみをいったん受け止めたうえで、回避しているという事実に向き合い、そのことを自覚する。そうすることで、戦うべき相手は症状でなく、「自分が傷ついてしまう不安から逃げようと回避していること」だと気付く。その上で、自分が一番恐れている状況を思い浮かべる。適宜、リフレーミングをする。(視点の切りかえ。)
    • 「それでも死ぬほどつらいの?」。「逃げてどうなるか」と客観的に考える。後でつけが回ってきてもっと辛くなるだけではないか?その苦しさを思い出す
  • 受け身でなく、自分から攻める
  • マインドフルネス
    • 自分の偏りを気にしない
  • 誰かを支えたり世話する体験をする
    • 愛着とは相互的なものなので、世話をすることによっても活性化する。
  • 偶然外部から訪れるチャンスを、尻ごみせずに積極的に活用してみる。
    • 回避型の人は、今の状況を変えたいが変えられないという膠着状態に陥りやすいが、外から手を引かれると、案外動けるもの。差しのべられた手に素直にすがってみる。動かず何も変わらないよりは、ずっと面白い人生が歩めるはず。

感動した一節

危険を避けようと、せっかくのチャンスを放棄し、人生の可能性を細らせていくとしてら、それで本当に危険を避けていると言えるだろうか。・・・不安や恐れを抱えて生きるということが生きるということだとしたら、不安や恐れから逃れようとしたとき、人は自分の人生からも逃げてしまうことになってしまう。

人はいずれ死ぬ。誰も逃れようのない定めである。逃げ続けたところで、最後には死が追いついてきて、あなたを呑み込む。・・・われわれに結果を選ぶことはできない。われわれに選べるのは、今この時を、いかに生きるということだけだ。チャレンジするか、しないかだけだ。逃げて生きるか、不安や恐れに立ち向かって生きるか。傷つくのを避けようとして、自分の人生からも逃げ続けることもできれば、逃げるのをやめて、傷つくのを恐れずに向かっていく生き方もできる。それを選ぶのは、あなた自身だ。

結局、人生は結果に意味があるのではない。その醍醐味はプロセスにある。チャレンジにあるのだ。それを避けていては、人生の果実を味わうことなく腐らせるようなものだ。

【今後のアクション】

  • 不安の症状とその原因について、ノートに吐き出す。
  • 不安に駆られた時は、最悪の状況をまざまざと思い描いてエクスポージャーしてみる。
    • それは本当に耐えがたいことなのかを考える。それから逃げて会社を休むことによって人生が細くなっていく恐怖よりも勝るものなのか?
  • 不安で仕方ないときは、とりあえず会社に行くだけ行って、自席で呼吸法をやって定時までやり過ごすことを目標にする。ハードルを下げる。それであれば乗り切れるはず。仕事振られても、先延ばしにしちゃう。少しくらいは仕事を進められるはずで、それは休むよりはマシ。
  • マインドフルネスを毎日やる。